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小児科クリニック
小児科医である上田憲さんによる身近な病気(子供から大人まで)のお話
第28回
≪第43号 2001.10.1発行号より≫

医療の問題点

 今までみなさん方に話題提供してきたこのコーナーも、今回が最終回となりました。昨日の15日休日は当院が休日当番日でした。この日の診療を通じて感じたことから我が国の医療における将来の問題点などを今回のテーマとしたいと思います。今回は文も少し長くなりましたが、今までお付き合い有り難うございました。
 我が国の医療は国民皆保険を原則として行われています。みなさん方が納付している保険料に雇用者側、自治体、国などが拠出するお金を加えて運用されています。その結果、かかった費用の1〜3割の自己負担で診察を受けることが出来、かつ老人と乳幼児には公的負担も行われています。だれでもどこでも好きな医療機関にかかれて、しかも同じ費用で医療が受けられる素晴らしい医療システムですが、その結果この保健がなり行かなくなっていることはみなさん方もご存知と思います。資本主義の国どころか社会主義の国でもこんな平等の医療を保証している国は世界中どこにもありません。
 例をあげると、昨日は休日診療だったので診察料が休日加算でかさみます。初診では2,500円、再診でも1,900円が余計にかかることになりますが、家族(お子さん)では3割負担なので自己負担は750円、
570円の負担増となります。しかし、老人と3歳未満の乳幼児では自己負担1回500円の上限がありますから、実際の休日加算分の自己負担増は有りません。お父さんが休みで連れて行ってくれれば、この程度の負担はタクシー代よりずっと安く済みます。全部が全部ではありませんが、鼻がちょっと出て、虫さされが痒くてなどのいつでもいいような患者さんが多くを占めます。こんな医療に矛盾を感じているのは私だけではないと思います。
 休日当番は休日診療所ではなく、急病で困った方のために静岡市と医師会が協力して行っている制度です。当然市が助成金を出しています。このように自分の都合だけで受診するような無駄遣い(しかも7割は公的なお金)が他人に及ぶことはだれも考えないのでしょう。しかし、このような医療における無駄遣いが患者さん側、そしてもちろん医療側の意識変革によって減らすことが出来なければ、患者さんの自己負担を増やしたり(社会保健本人を2割から3割)、老人医療の負担システムを変えても全く一時的なものでしかないのではないでしょうか。
 今年の夏休みにスイスへ行って驚きました。鉄道には切符売り場はありますが、改札口がありません。時間が来れば案内なく列車が出ますから、自分で切符を買って時刻表を確認して自分で乗り込み、目的の駅に着いたら勝手に降りる。車内で検札があるので、この時不正が発覚すれば高額のペナルティーを払う。コストは当然大きく削減されることになります。満員で検札が出来ない日本では無理かもしれませんが、新幹線では可能ではないかと思います。改札口のコンピューターと人件費を考えると不正乗車される額とどちらが大きくなるのでしょう。発想の転換が思いもかけない変革につながるのかもしれないと思いました。また、飲み物やタバコなどの自動販売機が全くありません。常日頃から思っていましたが、我が国でもあの自動販売機はどうにかならないでしょうか。大変な電気の無駄遣いで、ゴミの発生源です。飲み物の缶もデポジットで50円上乗せしたらどうでしょうか。だれも50円の缶は捨てないと思います。
 何から何まで面倒をみたり、これ以上ないほど便利といったシステムはコストがかかりすぎます。少しの不便は我慢する、自己責任を持つことで社会的な負担を軽くする、などの意識改革が今後はやはり大切ではないでしょうか。
 先ほどの医療を例に取れば、ご自分でお子さんの具合をみて自分の判断で1日待って平日に診察を受けた方、逆にもう1日早く平日のうちに診察を受けた方と、自分の都合で休日に診察を受けた方が同じ負担でいいとは思えません。このような場合、例えば休日加算分はすべて自己負担とする。しかし当日に入院を要した場合はその分を免除する。また低所得者の人には別の形で医療補助をする。このような案はどうでしょうか?思い切ってこの程度の変革をいろんなケースで行っていかなくては医療改革(聖域なき構造改革)とは言えないのではないでしょうか。

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第27回
≪第42号 2001.7.1発行号より≫

咽頭結膜熱(俗称プール熱)

 現在H小学校(2001年時点)で猛烈にはやっている咽頭結膜熱(俗称プール熱)を今回は取り上げましょう。
 1クラス数人から10人の欠席者がいるようなので、まるでインフルエンザのようです。発熱もインフルエンザに負けず劣らずで、39度以上の高熱が3日から長いと1週間も続き、眼球結膜が真っ赤になります。夏の熱性疾患の王様といったところですが、まれに乳児などで肺炎をおこして重症になる例を除けば、解熱剤などをうまく使って脱水、体力の消耗を避けることで自然治癒していきます。咽頭結膜熱は、夏に流行する(プールを介して感染するので俗称プール熱と呼ばれる)、潜伏期間が長い、抗ウィルス剤のような根本的な治療法がない、大人で感染することは稀であることなどがインフルエンザと異なる点で、一般的にはインフルエンザほど重症感もないように思います。ただし近年ウィルス疾患の季節性が大きくくずれてしまっている特徴をうけて、昨年は秋に流行し、両親の感染も見受けられました。
 原因はアデノウィルスによる感染で、潜伏期間が数日のため、家族内感染ではやっと一人目が解熱した頃に感染した兄弟が発熱し、ここからまた数日高熱が続くといった面倒な事態になります。これに対して、インフルエンザでは潜伏期間が短く大人も感染するので、一気に家族全員が発症するじゅうたん爆発的なパターンになります。アデノウィルスにはタイプが47種類とたくさんあって、咽頭結膜熱は3型と7型が主な原因とされています。それ以外のタイプでは流行性角結膜炎、乳児下痢症や出血性膀胱炎の原因になるなど多彩な症状を起こすウィルスとして有名です。
 診断は結膜炎と高熱の組み合わせになると容易ですが、ウィルスがのどだけに侵入すると結膜炎はおこらず、診断は容易ではありません。しかし最近アデノウィルスをチェックする診断キットが発売され、のどや眼球結膜からウィルスを15分程度で検出することができ、診断が確定できるようになりました。 
 感染力はかなり強いため、解熱後も2、3日は集団生活への復帰は慎む、逆性石鹸が無効なので手洗はアルコールやイソジンでおこなう、タオルや衣服は次亜塩素酸ソーダで消毒するなどが必要です。

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第26回
≪第41号 2001.4.1発行号より≫

薬好きの日本人?

 みなさん方の中にも我が国の医療においては総医療費の中にしめる薬剤費が外国に比べて著しく高いことはご存知の方もおられると思います。
 私の診療所での一こまをご紹介します。私「診察の結果、お子さんの病気はウィルス性胃腸炎と思いますので、ここまで自然に回復しているなら今さら薬の手助けはいらないと思いますよ」母親「でも熱がまだあって、薬は何もないんですか?」私「家に解熱剤があるなら、高熱になって困れば使って結構ですが、時間と共に熱も下がってきて良くなると思いますので待ってみて下さい。下痢もこの程度なら食事を養生してお腹をやすめればすぐに良くなると思いますよ」母親「本当に薬はいらないのですか?それでは今日診察に来る必要はなかったですね」そして、帰りに受付からまた戻ってきて、「少し咳も出るので、咳の薬を下さい」
 何かおかしいと思いませんか。診察に来るのは、薬をもらいにくるのでしょうか?診察した結果、特別な治療が必要ではなく、薬の手助けもなく治りそうなことがわかったら、薬には多かれ少なかれ副作用の危険が伴うので、これ以上のことはないと思いますが如何でしょうか。
 私たちが使う薬には大きくわけると、根本的な治療になる薬と対症療法(症状を和らげる)にすぎない薬があります。細菌を殺す抗生剤、高血圧を下げる降圧剤、不整脈を抑える抗不整脈剤、ガン細胞を攻撃する抗ガン剤などは前者に、熱を下げる解熱剤、咳を抑える鎮咳剤、鼻汁を減らす抗ヒスタミン剤、下痢を抑える下痢止めなどは後者に入ります。
 当然ながら、根本的な治療薬を投与するには正確な診断がまず求められますが、すぐに診断が確定できるわけではなく、それまでの症状緩和を目的として、対症療法薬も使われます。また急性の発熱や下痢などの病気ではウィルス性のものが多く、細菌性の病気は少ないのですが、最初に完全に否定することはなかなか困難で、診断が特定できるまで抗生剤を使うこともよくあります。
 我々小児科の診療所で見受けられる病気は急性のウィルス疾患が多く、その場合もともと自然経過で治癒傾向に向うので、本人が特別困って手助けが必要なければ投薬はいらないことになります。そこで前述の場面となるわけですが、適当に薬を出す方が両親の抵抗が少なく、無投薬は薬のいらない理由の説明が必要で、しかもなかなか勇気もいります。もちろん高熱やひどい咳には手助けとしての対症療法薬も有用で、自然治癒するウィルス性疾患といっても途中で脱水や呼吸困難のため自然経過にまかせられない場合もあり、そのような時は入院加療が必要なこともあります。
 このような診断と判断を個々の患者さんごとに行い、検査、投薬の必要性と内容を決め、必要なら入院加療を考えるわけですから、少なくとも就学前のお子さんは、知識と経験の豊かな小児科の専門医にかかられることをおすすめします。
 ちなみに市販の風邪薬なるものは主に鼻汁の対症療法薬が主成分、元気のもと(リポビタンなど)はカフェインですっきり程度でしょうか。この我が国の風邪薬の多くにさえ、アメリカFDA(食品薬品衛生局)が禁止している成分が含まれているとして現在問題となっています。

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第25回
≪第40号 2001.1.1発行号より≫

むしろ大人に多い頭痛

 この小児科クリニックも25回目となり、題材を何にするか頭を痛めます。今回は小児では割合少なく、むしろ大人に多い頭痛を取り上げて見ました。皆さん方の役に立てればと思います。
 頭痛には、大きくわけると急性の頭痛と慢性の頭痛があります。急性の原因としては、外傷がまずあげられますが、これは第11回の頭部打撲で取り上げました.。外傷以外では発熱に伴う痛みが最も良く見受けられますが、学童期以前ではまれです。ただし両親が「頭痛持ち」だと幼稚園児でも訴えがみられます。我慢が出来なければ、症状を和らげる目的で鎮痛解熱剤の使用によって、熱も下がり同時に頭痛も楽になります。これに対して、ずっと頻度は少なくなりますが、髄膜炎や脳炎に伴う頭痛があります。この場合、頭痛だけでなく、嘔吐やけいれん、意識障害を伴うことが特徴です。しかし病初期には必ずしも鑑別は簡単とは言えません。主治医による診断、予想される予後などの説明を受けた上で、時間をおった注意深い経過観察が必要になります。時間経過と共に病状が変化していくので、特徴的な症状が伴ってくるようなら入院精査が必要となります。熱が出ると頭痛を訴え、嘔吐を来しやすいお子さんがいます。髄膜炎と紛らわしいのですが、いつもかかる主治医をもつと、お子さんのパターンが主治医の頭に入っているので、不必要な検査もいらなくなります。
 急に起こって、繰り返す頭痛に片頭痛があります。遺伝的な要素が大きく頭の片側が「どっくんどっくん」と拍動性に頻繁に短時間続く痛みです。小児でも遺伝的におこりますが、頭痛の前駆症状があることもよく見かけます。規則正しい生活をして、起こったときのために自分にあった鎮痛剤などを用意しておくと良いでしょう。
 また、お子さんでは中耳炎の痛みが頭痛と区別できなかったり、歯の痛みを混同することも見受けられます。これらも、そのような可能性を頭に置いて診察すれば、診断が可能です。
 慢性のものには、徐々に症状が悪くなる脳腫瘍、水頭症や頭蓋内血腫などがまれですが見受けられます。高血圧による頭痛もこのタイプに入ります。当然ながら、これらは原因を確定してすみやかに治療が必要です。
慢性に、悪くならないが繰り返し起こる頭痛として代表的なものが筋緊張性痛です。女性に多く、後頭部、両側頭部や前頭部が締め付けられるように痛むもので、姿勢、生活習慣、ストレスなどが大いに関係有ります。むしろ片頭痛より多いと思われますが、緊張した姿勢を続けるときは、時々背伸びや首を回してほぐしたりすると効果があります。いづれにしても、素人判断は危険です。

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第24回
≪第39号 2000.10.1発行号より≫

夜尿症(おねしょ)

 皆さんのお子さんの中にも、夜尿症(俗称おねしょ)でお困りの方がきっといらっしゃると思います。自分のお子さんだけがいつまでもと思って必死に隠したがるご両親が多いものです。しかし、小学校の低学年では15%位、高学年で8%位、中学生でも3、4%の夜尿症のお子さんがいて、毎年20%ずつ治っていくといわれています。思ったよりずっと多くて、どのクラスにも必ずいるものだということです。しかもお子さん方のおねしょは、ご両親からの遺伝性の要素が強いとされています。お子さんをしかる前に、ご自身のご両親に確かめてみたら如何でしょうか。
 勝海舟は18歳までおねしょをしていたといわれていますが、大人物にもこのような隠された一面があるものです。大人のおねしょがどのくらいあるのかは、隠して医者へ受診することがなくなってしまうためはっきりしません。
 大人では、夜間の睡眠中に尿意を感じると覚醒しますが、こどもではこのような覚醒はありません。大人と違って、お子さんは尿意を感じて目が覚め、トイレにいくからおねしょが治るのではないということです。
 では、どのようにしておねしょが止まっていくのでしょうか?夜間は抗利尿ホルモンの分泌が増えるため尿量が減少します。加えて、尿がたまって膀胱が伸展しても尿意がおこりにくくなり、昼より膀胱容量が増えるとされています。このようにして、夜間に起きなくてもおねしょをしなくなるわけです。この機能は年齢と共に成熟してきて、しだいに夜尿症がおきにくくなります。しかし、この成熟には個人差が大きく、遅れ気味のお子さんでは夜尿につながるのです。
 したがって、夜おこすことも、しかることも、おねしょをしないぞと気合いを入れることも、おねしょが治っていくことにはあまり関係ないことなのです。水分制限することも、おねしょをなくすことにはさほど効果がないとされています。
 いずれは治っていくことが多い夜尿症ですが、小学校の高学年になると、集団のキャンプや体験学習などで困ることも出てきます。この頃まで続いていたら、治療を考えてみたら如何でしょうか。まず、夜尿が止まらない理由に特別な病気がないかを調べる必要があります。その結果、なにも見つからなければ、夜尿のパターンによって治療計画を立てます。特に、集団生活での心のケア―を考えてあげることが一番ではないでしょうか。

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第23回
≪第38号 2000.7.1発行号より≫

「キレる」と「がまん」

 前回は社会状況など、むずかしい話になってしまいましたので、今回は分かり易いテーマで話をまとめました。 
 こどもになにか事件や問題が起こると、親の愛情のなさや、こどもに対する配慮の乏しさ、こどものストレスが原因とされるが、これだけで説明がつくのでしょうか。もしそうなら戦前や戦争中のこども達はみな非行に走ったり、自殺していたはずです。しかし今よりはるかに厳しい時代であったにもかかわらず、こども達は問題行動には走らなかったのです。どうしてでしょうか。
 家庭の中で、こどもにも年齢相応の役割分担があり、一家協力して支えあって生きてきたからではないでしょうか。そのため自然に身に付いた「がまんする」ことがキーポイントではなかったのかと思うのです。
 がまんするということは、「欲求が阻止され、欲求不満の状態になっても不当な行動に訴えず、それに耐えて適応していくことの出来る個人の能力」と定義した人がいます。言い換えると、「心の免疫」、「心のブレーキ」、「心の抵抗力」と言えるでしょう。しかも、この力は人生の目標など、大きな目的の実現のため日々の生活をコントロールしていく力でもあるわけです。そして、そのがまんの先には達成感があり、よい環境を生んでいると思われます。逆は、我慢が出来ない、すぐにあきらめる、したがってうまく行かないという挫折感のみ、の負の循環です。
 では、この力は、いつ育つのでしょうか。幼児期の終わりまでに、家庭において生活習慣、道徳意識のしつけがなされると同時に発達すべきものと思われます。こどもの欲求が大小の阻止を繰り返し受けることによって、我慢することを学ぶのであって、過度に阻止され過ぎても、逆に過剰に受け入れられすぎても我慢は身に付かないとされます。兄弟間や友達との遊びの中でも身に付くことはあると思いますが、何より親のしつけが第一であることは言うまでもありません。
 最近のこどもは、年齢相応に我慢する力が育っていないため、ちょっとしたことで思うようにならないと、自分をコントロールすることが出来なくなってしまいます。年少児ではすぐにふくれたり、泣きわめいてしまい、中学生以上の青少年では自殺したり、相手を傷つけたり殺してしまったりします。この原因としては親の無意識の過保護も大きいと思われます。@言うことをききすぎAこどもが出来ることまで世話を焼くB挫折体験を排除しすぎC叱るべき時に叱らない、ほめるべき時にほめないD養育態度に一貫性がない。はっとすることがありませんか。
 こどもは極端に言えば欲望のかたまりです。この欲望を我慢させ、しつけることで未完成の「野蛮人」から真の意味での人間となるのです。
 親がしっかり育てるべき3歳くらいまでは手抜きで十分に育てもしないで、こどもが育つ幼児以降の時期になっても親が育てようとし過ぎるアンバランスもよく見受けられます。親の子離れもこどもの親離れと同様むずかしく、大事なことです。
 これらの家庭教育は、基本的生活習慣、道徳教育、がまんの獲得など家庭で行うべきしつけであって、学校や社会に責任転嫁するのはお門違いです。

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第22回
≪第37号 2000.4.1発行号より≫

今のこどもって本当に幸せでしょうか

 最近の京都の児童虐殺事件、新潟の女児監禁事件、死亡に至る被虐待児のたくさんのケース、こんな事件を目のあたりにすると、こんな時代に生きる子供って本当に幸せなのかなと心配になります。
 アメリカが、このようないわゆる猟奇的犯罪の先進国なのですが、日本でも後を追うように、年輩の人には信じられないような犯罪がここ十年くらいでしょうか目に付くようになってきました。犯人は、ほとんどの場合、乳児期における育児に問題があり、両親からの愛情を受けて育っていないと分析されています。2、3歳まではどんなに溺愛してもし過ぎることはない、と言われます。この時期の母親に対する絶対的な信頼が、後日のしつけや感情のコントロールに不可欠だからです。この信頼があってこそ、両親の言うことが無条件に受け入れられ、幼児期に公衆道徳や倫理感を親から教わって行くわけです。家庭崩壊が、母親の愛情と父親の権威といった古典的な家庭内パワーの乱れとなり、乳児期の無償の愛と、社会的に適応していくための幼児期のしつけや欲望の我慢という育児、教育がスムーズに行なわれない理由となっています。加えて、物質的な豊かさや高等教育が個人主義的な権利の主張を生み、他人の干渉を嫌い、他人(社会)が育児に関わりにくい状況を生んでいると思われます。物質文明が進むほど、被虐待児、母親の愛情離断症候群など劣悪な状況にある子供が増えています。そして、これらの子供が親になったときには同じような加害者の立場に立つ可能性が大きいのです。先日も保育園児で、6ヶ月でお座り、寝返りは出来ず、首もぐらぐらの全く生気のないやせこけた子供がいました。発達の遅れがあるのかと思いましたが、半年後にみたところ、同じ子供だったか分からないぐらい体重も増え、活気にあふれ元気になっていました。保育園で、質素でも栄養のある食事を与え、保母さん達が母親代わりの愛情を注いだ、ただこれだけの結果なのです。
 最近の若い者はという言葉は、ギリシャ時代以前からあるようですが、小児科医としてやはり言いたくなってしまいます。自分の欲望を抑制することが出来ず、パチンコやカラオケに夢中になり子供を放っておくようなら親になる資格はないと。子供は、金銭的に恵まれていること、ごちそうを食べ、いい洋服を着せてもらうことが幸せではありません。なにより、きちんとした家庭があって、親の愛情に包まれて育まれることが大切なのです。少しの間です。せっかくのお子さんのために、やりたいこと、楽しいことも我慢してあげていただけないでしょうか。個人的な権利という前に、権利には義務がつきまとい、子育ては社会的な義務でもあることを自覚して欲しいのです。

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第21回
≪第36号 2000.1.1発行号より≫

インフルエンザ

 エルに小児科クリニックのコーナーを担当してもう5年になります。今年もインフルエンザの季節がやってきましたが、最近のトピックなどに触れてみたいと思います。
  まず、厚生省が昨年のインフルエンザによる脳炎、脳症の全国調査を行ないました。インフルエンザに合併した脳症、脳炎は217例で、82.5%が5歳以下の乳幼児で占めました。死亡例は全体で114例と半数を超え、助かっても後遺症が残り、完全に治ったのは86例に過ぎませんでした。
  脳炎以外の原因も含めたインフルエンザにからむ死亡例は、統計上明らかになっただけでも全国で1287人でした。このうち70歳以上の高齢者が8割を占め、ほとんどが肺炎の合併や心不全によるものでした。この数値は氷山の一角と思われ、実際には万単位の方がなくなっているという見方もされています。
  要約すると、死亡原因は全く異なりますが、5歳未満のお子さんと、70歳以上の高齢者の方々にリスクが高いと言えます。
  診断と治療については、新たな展開がありました。まず、A型インフルエンザに関しては、診断が迅速キットによってその場で出来るようになりました。そして、A型インフルエンザに有効なアマンタジンという薬が保険で使えることになりました。私も昨年使ってみましたが、飲み始めて1日か2日で解熱が見られ、従来の治る時期が来るまで待つのみ、といった治療から一歩も二歩も前進できた印象がありました。ところが、アマンタジンを使う前に必要な、A型インフルエンザの検査キットが、残念ながら保険外となってしまいました。
  今年度はA.、B型どちらのインフルエンザにも有効とされる、ザナミビルという薬が保険で認められそうですが、吸入薬なのでリスクが高い肝心な年少児や高齢者ではうまく使えないかも知れません。
  ワクチンについては、手元のデータでは有効という意見が多いようです。年少児の脳炎による死亡例の中には接種者はなく、一方、老人福祉施設の2万2500人のデータでも、接種者はインフルエンザにかかるリスクが未接種者に比べて1/3に、入院は1/5に、死亡例も1/5に減少したという結果でした。アメリカでは鼻に吸入するワクチンが実用化されつつあるようですが、近いうちに日本でも使用可能となると思われます。
なお、昨年話題になった香港の新型インフルエンザは、幸いなことに広がった気配はないようです。最後に付け加えますが、インフルエンザにかかった人は他人へうつさないためにもゆっくり休む。外出から帰ったら、しっかり手洗をする。不必要に人混みに出かけない。これらは、費用もかからず、副作用もなく、かつ有効な方法なので、是非実行して下さい。 

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第20回
≪第35号 1999.10.1発行号より≫

アトピー性皮膚炎(2)

 現時点で考えられている一般的な原因をまずお話しすることにします。ほとんどの例では、両親からうけついだアレルギーをおこす素質が最も大きな要素となります。これに食物、猫などの動物やほこりなどに対するアレルギーが関与し、よだれ、食べ物、汗、ほこりなどの接触や皮膚の乾燥が悪化する因子となります。また皮膚をかきむしる物理的刺激が一層悪くなる原因となり、これらの種々の原因がからみあった結果として皮膚炎がおこります。でも一旦皮膚炎がおこると、かゆいのでかく、かくので悪くなる、よけいにかくの悪循環です。
 この悪循環を断ち切るには、まず皮膚を清潔にして、湿度を保つことが基本となりますが、かゆみ止めや塗り薬の手助けが当然必要となります。塗り薬にはステロイド軟膏(これには4、5段階の強度があります)からステロイドを含まない軟膏、保湿軟膏などレベルの違うものがたくさんあるので、皮膚炎の程度と場所によって使い分けが重要です。主治医に相談しながら、お母さんの経験で使い分けできるようにすると便利だと思います。ステロイド軟膏の副作用ばかりがマスコミで報道されていますが、きちんとした指導のもとで使えば確実な効果だけが引き出せると思います。怖がるばっかりでなく、上手に使えるようになりましょう。
 アレルギーの原因を除くことはもちろん大事ですが、アトピー性皮膚炎は患者さんによって種々の原因の関わり度合いが違うので、治療も一筋縄ではいかないのです。たとえば、乳児では卵白に対するアレルギーが見つかることが多いのですが、他の原因も複雑に絡んでいるので、卵白を厳密に除いても、それだけで皮膚炎がすっかり良くなることはまれです。ひっかいたり、汗で汚れたりも絡んでいるのでしょう。皮膚炎がほんとにひどいお子さんでも、病院へ1週間入院するとビックリする位きれいになります。眠っているときも手でかけないように工夫して、清潔を保ち、必要な軟膏を決まった回数塗るだけで効果てきめんです。でも退院するとあっという間に逆戻りです。きっと、ひっかくことの防止と塗り薬の確実な使用が大きな因子だと思います。
 アトピー性皮膚炎は簡単に治癒しない、薬の副作用が心配、命に関わるわけではない、などの理由で治療がおろそかになりがちです。でも、このことが治療効果が上がらない原因にもなっているのです。年齢とともに良くなることも多いので、悲観せずに主治医と一緒に根気強くこつこつとやっていくことが肝心と思います。
 くれぐれも言っておきますが、夢のような治療法は今のところありませんから。

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第19回
≪第34号 1999.7.1発行号より≫

アトピー性皮膚炎(1)

 この病気の名前を聞いた事のない方はまずいらっしゃらないでしょう。かゆくて眠れないお子さんに悩まされたり成人になってもひどいアトピー性皮膚炎でお困りの方もたくさんおられると思います。乳児期にはほお、耳たぶ、首周囲、前胸部、四肢屈曲部、年齢から始まり、年齢とともに部位を変え、また皮膚炎のかたちも変えながらしつこく続く湿疹です。子供では2歳位までに7−8割の人が随分軽くなりますが、そのまま成人まで続く人もいます。
 ちまたでこんな話題になり、患者さんも多い病気なのですが、今までこの欄で取り上げなかったのにはわけがあります。
 以前に解説してきた病気と違って、原因と治療がまだ確立していないのです。したがって本屋さんへ行くと一つのコーナーが出来る程たくさんの本が並んでいます。これに比べて気管支喘息は、2、3冊の本しかありません。アトピー性皮膚炎のコーナーには西洋医学の限界からか民間療法に関した本もたくさん見かけます。
 ここでみなさん、よく考えて下さい。安全に確実に直る方法があったら本屋にあんなに本が並ばないということです。この情報化時代に、特別な医者だけが知っているいい方法などないと言うことを冷静に考えて下さい。それでは民間療法には良い方法があるのでしょうか。今までにたくさん紹介されましたが、数年以上続いた治療法はほとんどありません。いわゆる民間療法は医療法の制限を受けないので、言いたい放題誇大宣伝をして高額な治療(こういっていいのかもわかりませんが?)をすすめ、数年で荒稼ぎをしておしまいというのが実状だと思います。この皮膚炎は、なぜかわからないが年月とともに自然に良くなる人もいるので、このような人を捕まえてすべての人に有効のように宣伝するのが常套手段です。西洋医学では、統計的な検討も必要であり、学会の場での洗礼をくぐらなければ特別な治療法を広く宣伝することは不可能と思います。私たち小児科医も、なかなか根本的に治療がうまくいかない例では害がなく、さほど高価でなければ民間療法でも良くなればいいぐらいに思っています。でも他の患者さんにも勧めようと思うような方法はいまだ経験していません。肝心の原因と治療は次回です。

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第18回
≪第33号 1999.4.1発行号より≫

 今日我が国の移植手術が新しい時代を迎えました。脳死と判定された女性から心臓、肝臓そして腎臓が取り出され、遠路搬送されて登録済みの重症の患者さんに移植されたわけです。臓器移植法案がすったもんだのあげく国会を通過したのは随分前なのですが、本人と家族の脳死からの臓器提供の意思が確認されるケースがなかなかなく今日に至ったようです。
 外国では心臓移植だけでも年間数千例(主に欧米)行われているような一般的な手術となっていますが、死生観が異なる我が国がすぐに同じ状況になるようには思えません。したがって今後も外国へ行って心臓、肝臓などの臓器移植を行なう例が後を絶たないと思います。しかし外国でもドナー(臓器提供者)は限られているため非常に不足しており、我が国の勝手な態度が非難をされてきたのも事実のようです。
 でも現実には移植以外に命が助かる可能性のない患者さんはたくさんいらっしゃいます。哲学的に、宗教的に命、人生というものを頭で考えることは出来ても、目の前にこのような患者さんがいれば、命の助かる道を閉ざす事は我々医療関係者としてはつらい選択となります。同じようにこのような状況に置かれた患者さんやご家族の方に移植治療をあきらめることが簡単に出来るでしょうか。
 臓器移植は技術的には確立した治療法で、成績も安定したものです。しかし、命、人生などの捉え方が千差万別であることを考えれば、国民全体が脳死からの臓器移植に対して同じ結論を持つことは所詮無理と思います。我が国の脳死基準や、臓器提供の意思確認は諸外国と比べても最も厳しいものとなっていますが、せめてこれらが確実に公正に行われ、その結果として移植手術に反対の方もそのような選択肢を受け入れられるときが来ることを祈りたい気持ちです。最後に今回も問題となりましたが、マスコミの軽率な行動には猛省を促したいと思います。
 今回は大変難しいお話しとなりましたが、皆さん方が正面から向い合わなくてはいけない問題と考え話題提供します。生と死、人生など一度じっくり見つめ直す時ではないでしょうか。

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第17回
≪第32号 1999.1.1発行号より≫

気管支喘息 2

 今回は前回の気管支喘息の第二回目として薬物療法の話です。
 前回お話したように、喘息は気管が敏感になることで、ちょっとした刺激でも咳や呼吸困難が起きる病気です。したがって薬は二つの面から投与されます。一つは、いま起こっている咳や呼吸困難の状態に対しての急性期の治療です。いま一つは、長期間にわたって気管の過敏性を落としていって喘息をおこりにくくする治療です。怠りがちですが、後者の治療が非常に大切です。
 急性期の治療では、すぐに効果が現れることが必要で、気管支拡張剤(気管を広げて呼吸を楽にする薬)が吸入、飲み薬、点滴などのかたちで使われます。代表的な薬としてキサンチン剤(テオドール)、β刺激剤(ベネトリン、メプチン、ベロテックなどたくさんある)が使われますが、薬の種類によって効果が出るまでの時間が違ったり、効果の持続する時間が違います。
また、どのように薬を使うかによって同じように効果の発現時間と持続時間が異なります。したがって、これらの知識をフルに利用して患者さんの状態にあった治療を行うことになります。もちろん薬の副作用や、他の薬との相互作用などの知識も必要となります。
 一方、長期間の視点にたった治療としては抗アレルギー剤(ザジテン、インタールなどたくさんあります)、吸入ステロイド(アルデシンなど)などがこれに当たりますが、やはり効果、副作用、投与の方法などの十分は知識が必要です。
 喘息は、長期にわたる治療が必要で、薬ひとつとっても、長期服用し、症状に応じて増減しなければならないので主治医との綿密な関係が大事です。自分の使っている薬くらいは、名前、副作用程度の事はぜひ教わって知っておいて欲しいものです。

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第16回
≪第31号 1998.10.1発行号より≫

気管支喘息

 皆さん方のお宅に気管支喘息で困っておられる方はいませんか?今回は気管支喘息、特に小児の喘息についての話です。
 気管支喘息は、気管支が枝別れしていった先の細気管支という細い部分で慢性の炎症が起こり、何かのきっかけでこの場所が痙攣的に狭くなって呼吸がしにくくなる病気です。子どもではこの炎症の原因は、家ダニや猫に対するアレルギーが大きく関係しています。これは両親から受け継いだアレルギーの体質を持っている子どもが、これらに接触する内にアレルギーが起こり始めて、早ければ10ヶ月から遅くても5歳位で発症するものです。アレルギーが一旦起こり始めると、気管が非常に敏感になって、アレルギーのもとそのものでなくても、タバコ、砂ぼこり、花火の煙、ウィルス感染(いわゆる風邪)などでもこのような呼吸困難が突然起こります。夜間に悪くなることが多くやっかいな病気ですが、最近では治療法が良くなって、入院することもずいぶん減って、死亡例も稀です。治療法は非常にたくさんあるのですが、喘息の程度もピンからキリですからその程度にあった治療を選ぶことになります。この治療については次回にお話することにします。
 大切なことは、喘息では発作が起こるたびに気管がダメージを受けてより敏感になり、次にはもっと発作が起こり易くなるといった悪循環にはまるということです。ですから、発作が治まった後も程度によっては治療の継続が必要で、症状がよくなればおしまいでは十分な治療になっていないということです。そして先に述べたように、猫、タバコ、花火など家族の協力で解決しなければいけない要素もたくさんあります。従って、きちんと主治医を決めた上で薬を使った治療方針をたて、同時に環境整備などの説明をしっかり受けることも大切なポイントです。当院でも、年に2回程度の勉強会をしてお母さんがたの理解を深める努力をしています。ご希望の方は電話で問い合わせてください。

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第15回
≪第30号 1998.7.1発行号より≫

医者ってどこへかかっても一緒?

 やっと今年のインフルエンザも終了の時期となりました。高熱を来し、熱性痙攣をおこして救急車のお世話になった方もいるかと思います。そこで今回は、熱と痙攣についてのお話です。
 「こんな高い熱で頭がおかしくなりませんか?」「痙攣でどうにかなってしまいませんか?」この両者は、お母さん方からよく聞かれます。熱の原因が脳炎や、髄膜炎などの脳の病気であれば、そのために後遺症が残る可能性がありますが、熱そのもので頭がおかしくなることはありません。また、痙攣も長時間続けば、その後遺症が残ったり、呼吸障害のために命にかかわる事態も起こり得ますが、熱性痙攣のように数分以内におさまるような場合は心配ありません。
 痙攣の原因はいろいろですが、熱性痙攣は乳幼児では5〜8%程度に見られ、痙攣の原因としては圧倒的に1番目です。これは家族性の事が多く、高熱にともなって左右対称に手足をつっぱったり、曲げ伸ばしをし、目は真上につりあがった状態となります。普通3、4分で治まり、その後はぐっすり眠ってしまいます。そして5、6歳頃にはおこらなくなる、良性の病気ですが、少数ですがてんかんに移行する例もみられます。痙攣も熱と同様に原因によっては後遺症が残ったり、命にかかわる事態となりますが、10分続くようなら原因に関わらず止める必要があります。痙攣が起こると、びっくりしてあわててしまうことが多いのですが、熱性痙攣ではここまで続くことはまれなので、嘔吐した食べ物を誤飲しないように顔を横にして様子を見て下さい。そして10分続くなら病院へいって治療を受けて下さい。
 典型的な熱性痙攣では検査もいりませんが、症状が違ったり、熱性痙攣でも回数が多い場合は脳波などの検査が必要となります。

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